第43回
建築とこどもたち
これはアメリカのニューメキシコ大学のアン・テイラー博士によって開発され
米国建築家協会(AIA)により広められた教育プログラムです。
日本には1990年に日本建築学会が紹介し、全国で実践されています。
新潟でも新潟大学の人文教育学部で五十嵐教授や
建築学会の木原さんが実践しており、私も何回かお邪魔しました。
建築というのは狭義にテクノロジーとして捉えられがちですが、
実はさまざまな社会的。技術的な要素が組み合わされて実現します。
建築家は英語でArchitectと呼びますが、
これもArt(芸術)&Technology(技術)の造語です。
日本では建築家と建築士が混同されていることがありますが、
The Archtectで造物主(神)と訳しますから
すごい称号であることを理解しなければなりません。
建物を設計するには、構造物としての力学を知るのは当然ですが、
そこで営む生活の想定も重要です。
人の心理といった心の学問も必要なのです。
デザインも日本では安易に解釈されていますが、
他国民族の集合体であるヨーロッパでは
第2の言語として重要な意思伝達機能を要求されます。
街は記憶の継承ですから、歴史を知ることも重要でしょう。
素材や温熱といった科学、物理の知識だって必要になります。
最近では医学的な知識も要求されるようになりました。
建築学は細分化された専門的学問を組み合わせた総合的な学術体系なのです。
私たちは本来、
これだけの英知を集めた建築や都市に囲まれて生活しているはずです。
ですから街が子供たちの人間形成に与える影響力は大きいといえます。
良い街に住むことは精神を豊かなものにしてくれるはずです。
近年、学問があまりに細分化しすぎて、
何のために学習しているのかを見失っています。
本来、人間としての自己の確立のために学ぶ学問は、
単に成績という数値を上げることが目標となります。
そこで、総合教育の必要性が提唱されるのですが、
建築や街での生活を学ぶことが
子供たちの創造力をはぐくむ良い教材にならないか?
これが「建築とこどもたち」のプログラムになるのです。
図面を描くことを一般の人はとても専門的な作業と捉えますが、
自分の意思を性格に相手に伝えることが図面の目的です。
相手に正確に伝えるという訓練としては最適なプログラムと言えるのです。
設計に携わる人は、こうした総合教育の実践者としての姿に気づかず、
自分の仕事は建築の(狭義な意味の)設計だけだと思っている人が多いのです。
しかし、本来は文化を築き、時代遅れの学校教育に一石を投じることができる、
創造的なポジションであるということを認識する必要があると思います。
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