第41回
お受験学校を侮るなかれ
私は新潟市内の建築士を目指す社会人のための学校で
2級建築士2次試験対策の設計製図の講座を受け持っています。
2次試験は5時間かけて建物のプランニングから製図までを行います。
実務の中で、いまどき手書きで製図を行うことはありません。
最近はCAD(キャド)と言われるソフトを使い、
コンピュータ上で製図を行っています。
図面をデータで持つほうが共同作業をする際、便利ですから。
そんな訳で初めて手書きの製図を行う人がほとんどです。
試験に合格するためには2時間以内にプランニングをまとめ
3時間以内で製図を完了させる技術が求められるのです。
受講生の多くは入学当初8時間以上かけて図面を1枚仕上げます。
手書き製図のイロハが分かりませんから当然です。
また、受験ですからテクニックも重要です。
例えば消しゴムを使えばそれだけ時間を無駄に消費してしまうのです。
9月末に行われる2次試験対策は8月から2ヶ月かけて合格に導きますが、
最初の一ヶ月はとにかく、いかに3時間以内で図面を仕上げるかに当てられます。
この1ヶ月の間はとにかく図面を描きます。
やる人は一日1枚のペースで仕上げてしまいます。
図面は建築を理解していないと描けるものではありません。
1本引く線の最初と最後に意味があるからです。
ところが、CADを用いて図面を作ると、新たに線を引くのではなく、
コピーというテクニックで作図できてしまいます。
このコピーというテクニックがCADによる製図の最大の武器なのですが、
それを生かせるのはしっかりとした理解のうえです。
理解が無くコピーされた線は始点と終点が曖昧になり、
現場での納まりがつかなくなります。
手書きですばやく図面を作図するという練習は
今まで曖昧に描いていた自分の図面を認識する作業でもあるのです。
最初の一ヶ月のトレーニングには
今まで図面を描いたことがあるとか無いとかはあまり関係がありません。
純粋にこちらの想定した図面を期日までに提出する人だけが伸びます。
実務で描いている人より、
事実、事務職の女性のほうが伸びることがよくあります。
初めて図面を描く人は素直ですから、
こちらのカリキュラムを遵守してくれますが、
実務者はいろいろな理由を見つけてサボる人が多いのです。
一ヵ月後に描きあげた枚数の重さがそのまま実力として表れます。
講師が教えるのは基礎的な部分だけです。
製図上達に魔法はありません。
おそらく、彼らが今後、設計士になったとしても
こんなに図面を短期間で描きあげることは無いでしょう。
一生のうちのわずか一ヶ月ですが、後悔する人、自信を持つ人さまざまです。
やる人とやらない人がいて世の中だと思いますが、
人の財産を預かる建築士の資質として、
やはりこの程度はやれてしかるべきでしょう。
いろいろな理由をつけて課題を描ききれない人は
資格を取って社会に出てもきっと同じだからです。
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