第278回
生長する家
家の耐久年数は法律的には25年程度で償却ということになりますが、
きちんとメンテナンスを行えば、50年から100年は十分使えるはずです。
しかし、住宅金融公庫の建替え年数のスパンは20年を下回ります。
これはどう考えても建物の構造的な問題ではないでしょう。
大抵の場合は家族構成の変化に対し、間取りが合わないということでしょう。
それと同時に設備の老朽化等もあり、いっそのこと建替えということになるらしいのです。
20年スパンでの建替えでは環境的に考えても資源の無駄遣いです。
100年といえば人間で言えば3世代くらいが生活できます。
メンテナンスは必要ですが、家族構成の変化に対応する家のデザインこそ長命住宅の基本なのです。
ハウジング新潟別冊で取材を受けたH邸は新築当初は7人家族という大所帯でしたが、
その後の家族構成の変化は当時から予測可能でした。
設計としては家を外から断熱材で包むという外張り断熱工法を採用し、
家の形のまま全てを利用できる温熱環境の確保を行いました。
また、構造はなるべくシンプルにし、細かい壁は力を負担しない間仕切り壁としています。
このことにより、家族の変化に合わせた間取りの変化を可能としたのです。
H邸は新築当初、外壁をレンガ貼りにしたいという施主の希望がありましたが、
基本性能を優先するために見送りになってしまいました。
外壁は一般的な防火サイディングとなりましたが、
こうした壁は塗装で対候性能を高めています。
ですから塗装が薄くなったり剥げてくると極端に性能が落ちてしまいます。
また工業製品の多くは製品サイクルが短く、10年もするとその品番の部材は廃番になっています。
結局、メンテナンスが不可能で全面張替えを余儀なくされます。
そこで、新築時に予算の関係で採用した防火サイディングは
次に来るであろうリフォームの際のレンガ貼りの下地であると想定しました。
今回、長男が嫁を迎えるということで、彼らの部屋をなんとかしたいという電話をもらいました。
築11年ですから建物にほとんど老朽化は見られませんが、
家族構成の変化には大きなものがありました。
昨年、おじいさまが他界され、また子供たちも巣立ちました。
お嫁さんを迎えても4人家族です。
これから想定されるのは孫たちの誕生です。
今回、リフォームを行うに当たり、部屋の用途変更を行いました。
今まで兄弟が使っていた部屋は若夫婦の新居です。
そしておじいさまの部屋は今回新たにゲストルームに生まれ変わりました。
和室に板の間をつけたし、細長く狭いけど、奥行き感のある庭を眺望できる掃き出しの窓もあります。
この部屋はなかなか快適で、ちょっとした離れのような空間です。
私の建築は夜が見せ場で、ライティングをうまく配置し植栽を浮き立たせたり、
和紙のブラインドで隣家や見せたくない風景を窓から切り取ることで、
とても落ち着きのある空間に仕上がりました。
たまにはこの部屋で食事をとり、旅館気分でも味わってもらえたらと思います。
そして念願のレンガ貼りの外壁です。
今回もなかなか予算が厳しく、またしても断念かとも思われましたが、
今までの経過を知った業者さんの踏ん張りでなんとか実現しました。
ダメになったからリフォームではなく、
成長に合わせたリフォームが行えることが重要なのではないでしょうか?
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