第20回
視点を変えると見えてくる
老年学という言葉を聞いたことがある人は少ないかもしれません。
一般的に論じられる学術体系とは若干違うので
ちょっととらえどころがないのですが、
高齢社会を紐解く技法としては有効です。
普通の学術体系が縦割りであるのに対し、
老年学はさまざまな学術を老化という切り口で
有機的に横断するといったら良いのかもしれません。
例えば、医学的に人間を分析すると
高齢化するに従い、当然のことながら
死亡率や罹患率は高くなります。
病気や死というネガティブな指標で「健康」を示す旧来の学術的手法では、
高齢者は弱者であり、
日本は健康だが少子化の若者が、多くの高齢者を支えるという
バランスの悪い社会になってしまいます。
今後、高齢化率は増加の一途をたどり
2025年には3人に一人が高齢者になると予測されていますが、
社会の多数派である高齢者を全て不健康な弱者であるとする
旧来の健康指標が果たして有効かと老年学では投げかけています。
老化の中で人間の体は何らかの疾病と付き合わざるを得ませんが
それをもって不健康であるという証にはなりません。
生物学的に言えば、生存率の低い動物は多出産の傾向にあり、
多くの子供を生まないと種の保存が出来ません。
若いうちに自然淘汰され、生命力の強いものが次の生命を生みます。
人間も同じで、弱いものは中年期までに淘汰され、
高齢者はむしろ、そうした疾病を克服してきた強い種であるといえるのです。
「健康」を罹患率で計るのではない新しい指標が必要なのです。
それが生きがいであったり、生活の自立度であったりするのです。
こうした老年学的発想の医学は疾病そのものより生き方をテーマにします。
まちづくりも原則的に多数派に便利な計画がなされますが、
今後は高齢者を軸に考えていく必要に迫られます。
交通機関はいかに高齢者の活動範囲を広げるかがテーマになります。
いかに早く目的地に到達するかを目標にする時代は終わり、
利用のしやすさが目標になるのです。
不景気だと嘆く産業界も同じでしょう。
今、社会は発想の軸を変えなければなりません。
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