第177回
福祉の実践者
月曜日は堀之内町の主催で、所轄の福祉従事者、建築事業者を対象とした
介護保険制度による住宅改修研修会の講師を務めてきました。
当日は梅雨の切れ間で、雲の間から夏の太陽が照りつける暑い日になりました。
60名近くの人が集まってくれたと思います。
最初に役場の担当者から介護保険制度の説明が行われ、
続いて私の講義が3時間半行われました。
3時間半は長丁場に感じますが、この程度の時間ではほんのさわりの部分しかお話できません。
ですから、今回は「福祉」という言葉の再確認と住宅改修を行うことの意味を考察してきています。
私は「福祉」という言葉にどんなイメージを持っているかを、
こういう機会があると、最初に確認することにしています。
日本国憲法で国が保障している「社会福祉」の意味が必ずしもきちんと認識されていないからです。
そもそも、つい最近まで制度そのものが誤った認識の中で行われてきたのですから当然です。
会場の人にマイクを渡し、ひとりひとり、自分のイメージを話してもらいます。
どこの会場もそうですが、「困っている人を助けること」「障害者」「高齢者」といった具合に、
自分は大丈夫だけれども、他の困っている人に手を差し伸べてあげることという認識です。
つまり「福祉」には特定の対象者がいるというのです。それを社会的弱者とよぶのだそうです。
しかし、「社会福祉」は日本国憲法の中で日本国籍を有する、日本国民すべてに保障しています。
対象者は限定していないのです。
また、「福祉」の実践者は特定のいわゆる福祉従事者が行うものという認識もあるようですが、
例えば、建築従事者は建築基準法の中でその第1条に
「国民の生命・財産を守るために最低限の基準を定め、社会福祉の増進に資する」
と書かれているように建築業を営むことは「社会福祉」の実践者であれと定めています。
およそ、日本の法律であるとすれば、その目的に「社会福祉」の実践が謳われているはずです。
私たちは知らない間に、「福祉」を不特定の人間に実践しているという訳です。
私たちが通常感じている「福祉」への考え方は、
こうした法的な解釈ではなく、実は仏教や道徳教育に根ざしたものです。
また、こうした旧来の「福祉」の考え方は底辺が広い人口ピラミッド構造の中で成り立っていましたが、
少子化はその人口分布を大きく変え、
今まで少数派であった社会的弱者と呼ばれた層は多数派へと変わりつつあります。
こうなってくると従来の解釈は成り立たなくなってしまいます。
一部の専門家が携わるだけでは「福祉」の実現は遠く、
国民の全てが「福祉」の増進に勤めなければならないという本来の法的解釈がようやく見直されたのです。
ここを認識できないと、講義は先に進めることが出来ません。
他人事ではなく、全ての人が「福祉」に関わっています。
全ての人が「福祉」の実践者なのです。
|