第135回
意外な訪問者
私は日建学院という社会人向け建築士養成講座の講師もしています。
現在、開講しているのは総合設計コースです。
このコースは設計製図の実技に焦点を絞り、毎月2回、夜間講義を行っています。
受講者はみなさん昼間仕事をしてから講義に参加してくれます。
年齢は老若男女さまざまで、
三谷幸喜の以前やっていたTVプログラム「HR」に近い雰囲気を持っています。
総合設計コースでは設計力や製図力が足りない受講者を
秋に行われる設計製図試験で合格できるところまで引き上げるのが目的です。
受講者は何らかの形で建築に関わり、それを実務経験としていますが、
現在は例え設計業務に携わっていても、そのほとんどはCADで行いますから、
実際に鉛筆で図面を仕上げるという経験は無いに等しいのが現状でしょう。
また、試験として行う設計は、クライアントとのコミュニケーションもありませんし、
与えられた時間もありませんので、実際の業務とはかけ離れた部分にあります。
そういう意味で、受講者のほとんどは素人に近い状態で参加するのです。
設計製図試験は4時間半で行われます。
約1時間は設計に使われますので、一式図面を作成する時間は3時間半です。
最初に受講者に図面を描いてきてもらうと6時間とか、10時間近くかけてくる人も居ます。
製図力を2倍から3倍引き上げなければ物理的に合格は難しいのです。
そして、スピードアップするための魔法は残念ながらありません。
講師は若干のテクニックは教えますが、
最終的には受講者の描いた図面の枚数に比例して力がついていきます。
私に出来ることはせいぜい建築の楽しさを教えて、その気になってもらうくらいです。
夕方、仕事を終えてから、夜中の10時まで講義、
その後も課題を仕上げる為に教室に残り、帰宅できるのは11時過ぎです。
私もかつては受講者の立場に居ましたので、その大変さはよく判ります。
添削指導の際にはいろいろと受講者の悩みや相談を聞きます。
回数を重ねていくと、お互いの人間性が判ってきますので、
非常に和んだ雰囲気になっていきます。
ハウスメーカーに勤めるMさんという若い女性が居ます。
彼女はもちろん製図の体験はありません。
現場もあまり判りませんから、
自分が引いている線の意味が判らずと惑うことが多いようです。
考えながら引くと時間が掛かります。
どうしても課題の提出が遅れてしまいがちです。
その事は本人が一番よく判っていて、添削指導で私の机の前に向かうのも苦痛でしょう。
その彼女が先日の授業の際、
「先生のつぶやきを読みました。」
というのです。
彼女の友達が以前私の検定対策講座を受講したことがあるらしく、
そんな話から、このHPにたどり着いたのだそうです。
それまでは厳しい先生だなと感じていたらしいのですが、
このコラムを読んで、多少は意識が変わったということです。
情報は発信しておくものです。
意外なところで、気持ちが繋がります。
ところでMさんは今回の課題を提出してくれませんでした。
「先生のコラムを読んでいたら『森の生活』が読みたくなって、
それで課題が出来ませんでした!」だって。
うれしいけど、その言い訳はちょっとね。
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