第99回
藁の家
藁の家といって、まず想像するのは「三匹の子豚」の物語だろう。
藁で作った家は、耐久性が弱く、狼の鼻息で吹き飛ばされてしまう。
藁は建築の材料としては不適格であるという、暗黙のイメージがある。
琵琶湖の湖畔に藁の家「ストローベイルハウス」を訪ねた。
ストローベイルとは藁を圧縮してロープで結んだブロックを意味する。
牧場の納屋に積み上げられた干し草ブロックをイメージしたらよいだろう。
アメリカやオーストラリアではストローベイルを積み上げて壁を作り、
粘土を塗り込んで、表面を漆喰で固めた家が存在する。
構造的にはブロック造になり、この藁のブロックは断熱効果に優れているそうだ。
ローコストでセルフビルドも可能ということで人気があるそうだ。
こうした自然素材の家づくりは健康的な暮らしを希望する人々の支持を得ている。
日本では建築基準法により、構造として認められていないため、
軸組みで構造を作った後、断熱材および外装材として使用する。
私たちが訪ねた藁の家は成安造形大学教授大岩剛一氏の設計により、
同僚の経済学部講師の家である。
藁は知人の農家から提供してもらった。
藁を刈ったり、ブロックを積み上げるのはボランティアや大岩ゼミの学生たちだ。
周りには水田が広がり、藁は幾らでも手に入りそうだが、
機械化が進んだ農業では、藁が細かく裁断されてしまい、
ブロックを作ることが出来ないのだそうだ。
もともと日本の家屋において藁は有効な建材の一つであったが、
近年の新建材の台頭ですっかり見捨てられた存在になったのだ。
家畜の飼料として、農協で販売されている干草ブロックの多くは輸入品だそうだ。
目の前にあるものは捨ててしまい、わざわざ輸入する日本の不思議だ。
経済性ってなんだろうと、不思議に感じることがある。
盲目的に人件費を削減することが第一だという風潮がある。
その結果、巷には失業者があふれている。
材料費が従来の家の1/3しか掛からないという藁の家に
人の手間をどんどん掛けて、のんびり自然志向の家を作るというこの試みは
現代の建築に一石を投じている。
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