第98回
まちづくり役場(滋賀県長浜市)
先日訪れた長浜商店街(黒壁スクエア)の中心的役割を担う部署である。
この役場は別に市役所の出先機関でも商店街の事務局でもない、任意団体だ。
もともとは商店街の空き店舗だった場所に、
第三セクター株式会社「黒壁」を中心に、それから派生した黒壁グループ、
ボランティア観光ガイド、熟年集団「プラチナ」...といった団体の事務局として
その業務を請け負ったり、地元放送局のスタジオ、
各種視察団体の受け入れ業務を行う場として共生する形で設置された。
ちいきの活動に役に立つ場としての「役場」である。
そして驚くことに、この「役場」は助成金等を受けていない。
人件費、家賃、光熱費は視察受け入れ料や観光チラシの作成などで賄っている。
かつては空き店舗率が5割を超えた長浜商店街である。
ちいきのランドマーク「黒壁銀行(旧第百三十銀行長浜支店)」が売りに出され、
解体話が浮上したときに、これでは長浜が終わってしまうと私財を投じて買い戻した
地元民間企業とそれに答えた行政が第三セクター株式会社「黒壁」を設立した。
「黒壁」は地域経済の再生を目指したが、それは伝統地場産業にとらわれることをしなかった。
既存民業を圧迫することなく、大型資本に対抗できる街の再生を模索したのだ。
全国に情報発信できる「国際性」や「文化芸術性」、長浜の伝統を想像させる「歴史性」
この3つのコンセプトを内在した事業として「ガラス工芸」を事業としたのだ。
時はちょうどバブルである。
イベント性が旅行者に受けた。
しかし、これだけでは一過性のブームで終わったことだろう。
初年度9万8千人の来街者が、今も二百万を越える成長を続けているのは
「黒壁」の活動が単なるイベントではなく、事業として成功しているからだろう。
「黒壁」の成功は派生事業を生み、活動が商店街全体に広まる。
「黒壁」の作り上げた街のイメージに乗っかったほうが商売はしやすいのだ。
やがて商店街は「黒壁スクエア」としての統一した景観を持ち始めた。
特別に何かを作ったのではない。
やった事と言えば、今まであったアーケードを撤去し、
昔の街並みに戻したこと。
かつてアーケードとして統一感を出すために、
商店はショーウィンドと上部を画一的なパラペットにしてしまった。
それを撤去したら、まっすぐに思えた道路に表情が出来た。
建物のファサードが街並みを豊かなものにしてくれたのだ。
私も地元商店街のアーケードは物心ついたときからあったので、
アーケードの裏にこんな宝物が隠れていることを知ったのは収穫だった。
活気が次の需要を生み出す。
「年間200万人も訪れるのに、駐車場とかはあまり整備しないんですね。」
と轄封ヌの伊藤常務に尋ねたら、
「それが商売になると思えば、誰かが自分の家を潰してでも駐車場を経営することでしょう。」
と笑って答えた。
長浜を真似ても多分失敗するだろうが、
この「まちづくり」という経営ノウハウは学ぶものが多い。
まちづくり役場は真の意味でTMO(まちづくり会社)として存在していた。
|