第88回
ゼロポイントはローコスト?
「ちいき住宅工房」の設計指針を「ゼロポイント」と呼んでいます。
ゼロポイントはその名の通り、原点という意味です。
「ちいき」を見据え、なにを家造りの原点に持ってくるかを考えています。
原点というと、往々にローコスト住宅を連想させますが、
何かを省いてコストダウンを図るという手法ではなく、
なにが必要かをしっかり見定める作業が原点を造るという作業なのです。
例えば、新潟県の夏は高温多湿で日射量が多く、
反対に冬は日射量が少なく、暖房期間が長いのが特徴です。
この地に夏を旨とする表日本の家造りをそのまま持ってきても効果的ではありません。
だからといって、北海道のような寒冷地型住宅でも夏は不快なものになってしまいます。
一般的な家は、空調機器で室内気候を管理しています。
しかし、きちんと「ちいき」の特徴を読めば、過度な空調機器は必要ないのです。
夏は日射の多くは屋根面で受けます。
ですから、屋根面の断熱性能を高めることが重要です。
後は、風の通り道をしっかり考え、
植栽のクーリング機能を上手く利用すれば、かなり快適な環境を実現できるでしょう。
冬は少ない日射を十分受け取れるようなパッシブソーラー的な設計をしますが、
あまりにこだわって全てを太陽熱に求めても、現実的には足りません。
そこで、足りない熱量はパネルヒーターで補うようにしています。
例えばこのように快適な室内気候の確保は、ゼロポイント設計指針では原点なのです。
人生の中で最も高価な買い物である住まいの多くは暖房がオプションになっている事実。
ゼロポイント的に考えるとマイナスポイントの家になってしまいます。
反対に装飾的な部分はプラス部分になります。
構造と装飾を分けるのは世界的には一般的なことです。
2x4(ツーバイフォー)が構造部分を壁パネル部分で受け持ち、
仕上げをペイント仕上げや壁紙で行っていることを思うと理解しやすいでしょう。
一方、日本で一般的な住宅は軸組み工法です。
日本の家は柱が構造材であり仕上げ材になっているのが特徴でした。
最近の軸組みの家も多くは柱を隠した大壁にしてしまいますので、
そういう意味では構造材と仕上げが分離しているといえるでしょう。
ゼロポイント的な発想では、
軸組みを単に構造材として隠してしまうのはもったいないと考えます。
そこで、軸組みをあらわしにしてしまうのを原点としています。
特別に仕上がりの良い材を使うのではありませんが、
部材寸法を合わせ、構造もデザインすることで、十分仕上げとして耐えるものです。
このほかの仕上げが希望であれば、
その上に板を張るとか、クロスを張るとかすれば良いでしょう。
そういう装飾部分は原点にプラスする部分として捉えるのです。
「ゼロポイント設計指針」は必要と思われるものと、趣味性のものを分ける方法論です。
原点で作っても十分、楽しい生活が出来ますが、その上に個性を加えていって欲しい。
単にローコストではなく、ハイコストパフォーマンスを目指した家造りの指針なのです。
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