第75回

村上のお人形様めぐり

新潟県村上市で今年4年目を迎えるお人形様めぐりに行って来ました。
市民運動のまちづくりです。
村上市は城下町です。
城は城壁の一部がようやく残っている程度です。
市内に瀬波温泉があり、他の市町村と比べて観光資源の豊富な街でしょう。
しかし、中心市街地は寂れ、国道沿いに大型店舗が林立するという状況は避けられませんでした。
中心市街地活性化のために若手経営者が集まり、思いついたのが各家に眠るお人形様でした。
村上市は何代も続いている家が多く、結構お宝が眠っています。
お雛様も江戸時代からのものを持っている旧家が多かったのです。
そこで、こうしたお人形様を公開し、活性化を図る試みを行ったのです。
やはりマスコミの力は大きく、NHKが取り上げてくれたことが多くの観光客を呼んでくれました。

もし、このイベントが一過性であったなら、ジリ貧でしょう。
実際、何人かの人に聞きましたが、このイベントによる経済効果はあまり出ていないとのこと。
観光客でメインとなる中心市街地に訪れて、お金を落としていく人は少ないようです。
実際、私も何も買ってきませんでした。
旅行社のシールを貼っている人は結構いましたから、それでも温泉は潤っているかもしれません。

しかし、このイベントは大成功だと思います。
お人形様を公開している家のお年寄りが、とても生き生きと説明しています。
最初は若い人たちに付き合って、押入れの奥から引っ張り出したお人形様ですが、
こういう古いお人形様がありますよという情報発信が、訪れた人から新たな情報を得ます。
今まで知らなかったお人形様のルーツが見えてくるのです。
大抵の市街地活性化の試みや観光資源の掘り起こしは、市外の人に向けて行います。
しかし、このお人形様めぐりは自分たちの街の歴史を見直す作業であり、
結果として多くの人が訪れるようになったのです。

同じように何の変哲もない村が、日本中から人を集めていたりします。
自然以外の観光資源はありませんが、村の高齢化率の高さを逆手に取り、
村の産業を高齢社会にシフトしただけです。
今まで村の外に仕事を求めていた若者を、福祉関係職として村に呼び戻しました。
村の生活は高齢者にとって、住みやすいものになり、若者は職を得ます。
自分たちの生活を見直すことで、その実態を視察したいと、日本中から人が訪れます。

仕掛け作りはなかなかうまくいきません。
でも、それはどの市町村も同じです。
だったら、自分たちの生活そのものを見直したほうが良い。
自分たちの生活が楽しくなれば、他の街から人が見に来ます。
日本全国の市町村が観光地になれるわけはないのです。
それよりは、自分たちの生活しやすいまちづくりを考えましょう。
人口を増やすために造成をする必要はありません。
今住んでいる人たちが街で生活を楽しむことだけを考えれば良いのです。
生活が楽しいよと情報発信すれば、その情報を求めて人は勝手に集まります。