第45回
伝えるということ
図面を描くトレーニングの一つとして、
「伝えるということ」を認識するという学習を行います。
図面には様々なルールがありますが、
それはなるべく簡潔に多くのデータを伝える為に決められています。
しかし、その意味が分からなければ、
単に訳の分からない専門的なものにしか見えないでしょう。
これは別に建築に限ったことではなく、
例えば音楽の世界にだってあてはまるでしょう。
五線譜は世界共通の言語ですが、分からない人には全然理解できません。
そこで、私の授業では、最初にルールを押し付けるようなことはしません。
まずは、自分が相手に伝える努力をしてもらうのです。
ぜんまい仕掛けのおもちゃを用意します。
このおもちゃをもう一つ作りたいけど、
おもちゃは一つしかなく門外不出だとします。
現物を見ながら造ることは出来ませんから、
やはり何らかの形でこのおもちゃの構造を伝える必要があります。
そこで、図面もどきを描くのですが、まずは自由に描いてもらいます。
からくりも分かりませんから、想像しなければならないでしょう。
外観の形状と、構造の関係はどうなっているのか?
それを人に伝える為にはどうしたら良いのか?
生徒は試行錯誤しますが、想像し、徐々に図面らしくなっていくものです。
図面はもともと、
先人たちのこうした試行錯誤により作られていますから当然です。
もちろん洗練された図面を望むべくもありませんが、
こうして図面の意味を知るのです。
福祉住環境整備の会合に出ていたとき、
図面を描けなければ参加してはいけないのかと開き直られたのですが、
その人にとって図面は特殊技能で、
知らない自分たちには排他的なものに写ったのかもしれません。
しかし福祉住環境整備を行うのに、
図面は最も有効な意思疎通の手段であり、別に特別なことではないのです。
建築とは関係ないから、図面を描けなくても良いということではありません。
分からないことは聞けばよい。
そのためにネットワークに参加しているのですから。
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