第31回
家の記憶
私が家の設計を依頼されたとき、
新築の記念に友人の画家の作品を贈ることにしています。
そして、もしもその物件が建て替えの時には、
取り壊す家を彼に描いてもらっています。
建て替える理由は様ざまでしょう。
構造的に老朽化した
家族構成に合わない
使いづらいなどです。
設計を依頼するときはネガティブな面だけが目に付きます。
しかし、その家で家族は生活し、
家族の記憶を残してきたでしょう。
家の解体の際、重機での解体を目の当たりにする家族に
今までの楽しかったこととかが走馬灯のように甦ります。
これから出来る新しい家への期待と、過去の家族の歴史が交錯する瞬間です。
私の仕事は創造することですが、
その過程の中でこのように破壊も行わなければなりません。
家族の記憶を作ってきてくれたこの家も
いろいろな人の手で造られたのでしょう。
それを壊す罪でもありませんが、
油絵にかつての家を描くことで
家族はその記憶を塗りこめます。
新しく出来た家には、設計段階から絵を飾る場所が設定されています。
新築祝いに友人の画家と一緒に絵を届け、
そこに飾り、家族と記念写真を撮ることが
私の事務所の儀式にもなっています。
こうして飾られた絵は
今まで家族が作ってきた記憶を
新しい生活に繋ぐのです。
3年前に地元のデパートで
「家の記憶-建築と絵画二人展」を開催しました。
4日間の開催で、延べ3000人の来場を得たことは
多くの人が私たちの試みに共感してくれた証です。
人は記憶の中に生きます。
いいことも悪いこともリセットすることではなく、
しっかり継続することが重要です。
何も考えず、ただ新しいものづくりをするのか、
しっかり継続するのか。
福祉住環境整備の際にもしっかり考える必要があるでしょう。
安易に施設に頼るのではなく、
街での生活の継続が重要なのです。
|