第254回
深呼吸しませんか
建築士の製図試験時間は4時間半です。
この時間で問題文を読み、それに即したプランをまとめ、
平面図、配置図、矩計(かなばかり)図(断面詳細図)、立面図、面積表
といった要求図面を作図するという過酷なものです。
時間配分としてはプランニングに1時間、作図に3時間半が目安になります。
そこで養成講座では講座の前半は3時間半時間内作図の達成が目標になり、
後半は1時間でプランをまとめる力を養います。
図面を短時間で仕上げる魔法はありません。
図面の意味や作図のやり方とかのノウハウは教えることが出来ますが、
結局は受講者本人が何枚の図面を描ききれたかという実績に比例して時間は短縮します。
ここでは要求された図面をとにかく一式作図するというのが重要になります。
おのおのの図面をいったいどれくらいの時間で自分は描ききれるのか?
作図時間の管理が出来ないと、限られた時間内で全ての図面を描くことは不可能です。
合格できない人は決して図面を描けないのではなく、
時間をかければ描けるにもかかわらず、平面図だけに多くの時間を割いてしまい、
残りの図面を描ききれないで失格してしまうというパターンが多いのです。
試験ですから、時間内に要求された図面をすべて描く必要がありますが、
それが無理なら、せめて減点覚悟でとにかくすべての図面に手をつけなければならないのです。
そのためには自分の作図能力を時間管理し、例えば立面図なら20分あれば描けるのであれば、
平面図ばかりに時間を割くのではなく、途中であっても他の図面を描ける時間の余裕を見ながら
次の図面の作図に移る必要があります。
また、作図時間がかかってしまう人を観察すると、決して線の引き方に時間がかかるわけではありません。
線を引くまでに時間がかかってしまうのです。
つまり作図の際に考えながら線を引いてしまいます。
これでは図面を描くのに時間がかかって当然です。
作図は単純に労働です。ここで頭を使ってはダメなのです。
頭を使うのはプランニングです。
作図時間のかかる人は、結局自分が描こうとする図面の内容が頭に入っておらず、
線を引くたびに頭を悩ませているのです。
ですから、しっかりプランニングを行うことがこれからの作図時間の短縮に貢献します。
かくして、後半はプランニングの能力養成が目標になるのです。
ところがプランニングものんびり構えて行うのであればうまくまとめることが出来る人も、
こと試験となると状況が変わってしまいます。
受験会場では他の受験者が必死になって試験を受けています。
そういう状況の中で、冷静に問題文を読み、的確なプランニングを行うというのは
なんの訓練もせずにいきなり試験に臨んでも出来るものではありません。
そういった精神的にいっぱいいっぱいの状態でプランニングという作業をすることは
その人の本来の実力を発揮できず、問題文をいろいろな方向から考察するという余裕をなくします。
プランの方向性を冷静に決めることが出来ず、最初に思いついたプランだけで走り出します。
もしその方向性が誤っていても、無理にそのプランでまとめようとしますから
1時間というプランニングに当てられる時間はすぐ過ぎてしまいます。
その結果、中途半端な内容のまま作図に入り、作図途中でまた頭を使ってしまうことになるのです。
時間が足りなくて、図面を描ききることが出来ませんでしたという人のほとんどのパターンです。
日常の仕事でもそうですが、
精神的に追い込まれた状況では、本来の実力は発揮できません。
重要なのは回りに流されるのではなく、自分のペースで行うことです。
周りに煽られているなと感じたときは、私はまず深呼吸です。
追い込まれた状況というのは、大抵 脳に酸素が十分に供給されていません。
まずは酸素を取り込みましょう。
そして深呼吸することで、タイミングを外し、悪い流れを断ち切りましょう。
追い込まれた環境の人にそんなことを助言しても聞き入れてもらえるとは思いませんが、
これから後半に差し掛かる、まだすこしだけ余裕のある今、
この助言を頭の片隅において置いてください。
必ず、助けになってくれると思いますよ。
ただし、この助言は仕事(この場合作図)がきちんとできる実力がある場合に有効です。
仕事に奇跡はありません。
結局はその人の実力が試されているのですから、
日々の訓練を無視して、当日だけはうまくこなせることが出来るなんてありえないのです。
その上で仕事に流されず、自分を取り戻すというのは効果的だという助言です。
それにしてもまずは深呼吸してみませんか?
案外、目の前の問題は簡単なのかもしれませんよ。
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