第240回
半年の命
父親は3年前に喉頭癌を患いました。
完全な切除を勧められましたが、もう70近いという年と、片肺ということで
体力的に不安があるということと、
残された人生を喋ることも出来ず、食事も満足に出来ない生活は耐えられないということで、
ポリープ状になった細胞を細かく切除することにしました。
完全に癌細胞を取りきることは出来ず、
その後、毎年のように同じような手術を繰り返し、1年のうちの1ヶ月は病棟で過ごすという生活です。
若い人がこのような対処をしていては、あっという間に他にも転移してしまうところですが、
年寄りの癌細胞は、やはり元気が無いようで、進捗は随分遅いのだそうです。
以来、癌と共存する生活を続けています。
癌を宣告されて以来、すっかり健康という言葉に敏感になり、
もともと性格的に弱い父は、いっそうナーバスです。
それに付き合う母親もすっかりやつれてしまいました。
父親の深層心理を勝手に分析し、そのわがままさはどこから来るのかと
随分、母の愚痴を聞いたりもしました。
最近、神経内科に通い始め、心理学にも接し、すこしはそういう父親にやさしくなれました。
癌を患うと、定期的に検査をし、再発の予防と対処を行います。
父は大体半年のペースです。
内視鏡検査をするのですが、組織を一部取り出し、培養検査をします。
結果は1週間くらいで出るので、またそれを聞きにガンセンターへ連れて行かなければなりません。
でも、検査する先生の声や顔色で、大体察しがつくのだと言います。
今回は大丈夫かなと言いながら出てきました。
定期的な検査で異常が無ければ、とりあえず半年の命の保障がされたといっても良いでしょう。
人間なんて何時死ぬかなんてわかりません。
幸せは永久に続くと信じたいし、死ぬ時期なんか知りたくもありません。
でも父は「また半年、命をもらった」と言うのです。
生命の量を量りながら日々の生活をするっていうのはどんな気持ちなのでしょうね。
来月、検査の結果が伝えられますが、また半年、父の命が増えることを希望します。
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