第179回
美しい村
「…数年前までは半分壊れかかった水車がごとごと音を立てながら廻っていた小さな流れのほとりには、その大抵が三四十年前に外人の建てたと言われる古いバンガロオが雑木林の間に立ちならんで…」
私が軽井沢を始めて知ったのは、堀辰雄のサナトリウム文学「美しい村」からです。
その後もジョンレノンとオノヨーコがお忍びで泊まったのが万平ホテルだとか、
漫画の「軽井沢シンドローム」などでいろいろな情報を得ていたのですが、
実際にこの街を訪れたのは、自動車免許を取り、広域に移動する術を得てからのことでした。
その後は毎年1度くらいのペースで訪れていますが、
静かだった旧軽もすっかりと街の様相が変わり、なんだか趣が無くなってしまい残念です。
あの趣のあった駅舎もいまや新幹線が乗り入れる近代的な建物ですからね。
軽井沢はやはり避暑地ですから、夏がトップシーズンです。
でも通は秋になりかけの頃出かけたりします。
東京の有名店の出店が多いので、当時はシーズンオフにバーゲンやるんです。
人があふれる夏とは違い、人影はまばらでぶらつくにはちょうど良い感じです。
最近は随分東京も近くなってしまい、そういうこともしなくなりましたが、
20代前半の頃はこうして軽井沢の街と付き合っていました。
今はアウトレットモールが出来て、また買い物スポットとして脚光を浴びているようです。
最近のニュースではソニーの名誉会長の大賀典雄氏が、退職金の全額を寄付して
音楽ホールを作るということでますます変わっていきそうですね。
どんな建物が建つのか楽しみでもあります。
建築で好きなのは中軽にある軽井沢町立図書館です。
旧軽がどんどん様相を変えていても、このあたりは昔のままで、木立の中にたたずんでいます。
書架の設計がとても良く出来ていて、わざわざ見に行ったものです。
最近、増築をしたらしいので、久しぶりに行ってみようかな。
実は昨日から軽井沢に滞在中です。
昨日は晴れていましたが、今日は朝から雨です。
最近ちょっと忙しかったので、のんびり週末を過ごそうと思います。
軽井沢を訪れるにあたり、昔買った「美しい村」の文庫本をひっぱりだしてみました。
すっかり日に焼けて年季の入った本はカバーに1977 Springとタイプライターで打ってありました。
もう26年も前に買った本です。
その頃は私もまだ16歳でしたから、思春期真っ只中です。
本に描かれた情景を思い浮かべながら、憧れみたいなものを持っていたのでしょう。
歳を取るわけで、どうりで私も軽井沢の街も随分変わってしまいましたが、
それでもまだちょっと車で走ると、
昔の雰囲気を残す「美しい村」であることには違いがありません。
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