第144回
松坂牛鉄板焼き
新潟市寄居町にキッチンVという店があります。
この店も20年来通っているお気に入りの店の一つです。
グルメブームでいろいろな嗜好を凝らした店がありますが、
この店は地域に根ざした食堂と言う感じの店です。
それでも近くに大学病院があったり、県知事公舎があったりで、
かつての新潟県知事 君健男さんもなじみの一人でした。
私が通っていた当時は、
職人肌の親父さんが弟子達に激を入れながらカウンターの中で料理を作っていました。
この店の良いところは、一階はカウンターのみで、お客はすべてが見えるところです。
時間の暇そうな時に行くと、弟子達は夕方の下ごしらえをしていたり、
親父さんは競馬新聞を熱心に見入っているという感じです。
それでも味はピカイチで、食通をうならせるマニアには有名な店なのです。
この店の料理の中で、もっとも私が多くオーダーしているのが松坂牛鉄板焼きです。
松坂牛なんて言うと、とても高そうですが、そんなことはありません。
切り落とし肉を使うので千円札一枚あれば大丈夫。
細く切った松坂牛をステーキ皿の上でバターで炒めると、
その肉汁とバーターが絡み合って絶妙のスープになります。
そこにパスタとコーンを加えて出来あがりです。
キャベツの千切りと特製マヨネーズのサラダもとても美味しい。
ライスにはおしんこが3切れほど付いて箸休めになります。
親父さんは「若いんだからいっぱい食べなきゃだめだ。」と言って
ライスを追加してくれたり、おしんこを追加してくれたのが懐かしい思い出です。
そんな親父さんがガンに冒されたのは10年くらい前でしょうか?
いつものように松坂牛鉄板焼きを食べていたら、店を閉じることを知らされました。
親父さんは最期まで店に立ち、ダメになったら店を閉めるのだそうです。
その頃、私は職場を三条に移していましたので、そんなに通うことが出来ませんでした。
ある日久しぶりに行ったら、店は閉められ、閉店を告げる紙がドアに貼ってありました。
もう、あの味を楽しむことが出来ないのかと思うと、とても残念でした。
それから数年はあまり近くに行くことはありませんでしたが、
たまたま通りかかったら、店が開いています。
店の名前も昔のまま。
狐につままれたような気持ちでドアを開けると、そこは記憶がよみがえる光景でした。
メニューにはしっかり松坂牛鉄板焼きもあり、
オーダーすると昔ながらの味が口いっぱいに広がりました。
きっと弟子のひとりが後を継いだのでしょうね。
ここに至るまでの、この店の歴史があるのでしょう。
とにかく私はまた好きな店を一つ増やすことが出来たわけです。
これを読んだ方は一度覗いてみる価値はありますよ。
あまりメジャーにはなって欲しくないけど、私が人を連れて行きたい店の一つです。
オギノ通りに面したこの店はきちんと継続できている数少ない店だと思います。
|