第142回
宝物がどんどん減っていく
安藤忠雄氏の講演会は5月にオープンした
新潟国際コンベンションセンター朱鷺メッセで行われました。
この新しい建物は様々なオフィス機能や宿泊施設を併設しています。
そして31階建てのホテル棟は間違いなく新潟のランドマークになるでしょう。
新潟に高層ビルは要らないという地域文化的議論もいろいろ出ましたが、
地震の際の液状化が心配であることを考えなければ、
槇文彦氏がデザインしたガラスの塔は美しいと思いました。
最上階は無料展望台になっており、せっかく来たので登ってみました。
直通エレベーターは横浜のランドマークタワーのそれのように
スムーズに私たちを地上100メートルの世界に運んでくれました。
展望台はネクスト21の先端の高さと同じ高さだそうです。
ネクストの展望台からは30メートルも高い位置です。
展望台からみる新潟の風景は新鮮でした。
夜も開放しているということですから、デートコースにはお勧めです。
また、ウォーターフロントも良くなりましたね。
すっかり国際都市としての顔が出来上がっていました。
講演会が終了した後、せっかく新潟まで出てきているのだから
久しぶりに軽く飲んで帰ろうかなと思い、古町へ足を向けました。
私の好きな店のひとつにMというバーがあります。
この店はもともと芸者の置屋だったのを改造した店で、
町屋の情緒を残しながら、創作系のフレンチを食べさせてくれ、
カクテルで至高のひと時を与えてくれます。
客単価は1万円以上を覚悟する必要がある新潟では高級店ですが、
それだけの価値があると思います。
だから、ここ一番の時は利用させてもらっていました。
この数年は顔を出していなかったのですが、変わりましたね。
料理は満足のいくものでしたが、カウンタースタッフが一変していました。
この店の教育はどうなっているのかと疑いたくなる光景です。
カウンターの中は女性スタッフが3人居ます。
以前は男性も居たのですが、最近は女性だけだそうです。
女性だけといっても場末のスナックのそれではなく、
2人は毅然とした凛々しさのある女性でした。
問題はもう一人です。
おどおどとした態度に新人であることは明らかでしたが、
なんとも凛々しくない。
どうしてこの子を採用したのか、そこにオーナーの気持ちを疑いたくなります。
別に容姿がどうと言っているのではありませんが、
少なくとも大人の店です。
この前、専門学校を卒業してきましたみたいなのはやめてよ。
スタッフの容姿態度だってサービスです。
私は凛々しい方にカクテルを頼んだのですが、
そのオーダーは新人に託されました。
カクテルはきりっとした態度で作って下さい。
頼むからカウンターの下にレシピが隠されていることをお客に悟られないで下さい。
お客は君の作る一杯に2千円出すのだから。
カクテルはお客の前に空のグラスを置いて、
シェイカーから注がれるお酒の量がピタリと定まるのが美学です。
バーテンはシェイクするときに溶ける氷も計算するものです。
カウンターの影で量を調整しながら注がれたグラスがようやく目の前に運ばれて、
ああ、また僕の宝物が無くなってしまった
と嘆いてしまいました。
新しいものが出来る一方でどんどん宝物が無くなっていくのは悲しいです。
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